
ウェールズは雨が多いせいか生産性も低く、野菜農家自体少ないため、輸入物に頼らざるをえない。大手スーパーで大量のオーガニック野菜が売られれば、地元の小規模な農家はひとたまりもないだろう。地元の野菜の方が新鮮でエネルギーの無駄もない、地域経済を支えるためにもローカルな野菜を食べましょう、という地元農家の切実な訴えもよくわかる。
そういえば「フードマイル」という食糧の移動が環境に与える影響を最初に試算したのはイギリス人だった。消費者運動家ティム・ラング氏は「食は地産地消(生産地と消費地が近いこと)が望ましい」という考え方を提唱した。輸送にかかるエネルギーなど環境的な負荷だけでなく、生産地が発展途上国で消費地が先進国という場合、生産地が消費地から受ける経済的圧迫も無視できない。イギリスの国民一人当たりフードマイルは約3200(トン×キロメートル)(2001年)。食糧自給率は7割。ちなみに日本のフードマイルは世界一で7000を超える。食糧自給率は4割だ。

野菜の販売ルートはいろいろで近頃ではボックス・スキームと呼ばれる契約型販売も流行している。有機農家と消費者が直、あるいはコーディネーターを通して契約。定期的に数種類の野菜や果物、乳製品などが届くというシステムだ(日本でもいくつかのサービスがある)。国内40000世帯に毎週ボックスを届けているというコーンウォールの有機農場では、夏の間は300人の人が雇われるそうだ。しかし、冬になるとその数は50人以下に減り、しかも働き手の半分以上はポーランドからの移民だと聞いて、とても複雑な気持ちになった。
マーケットが確保されていることは生産者にとっても有利な条件だが、大規模な消費に対応するには必ず担い手の問題が発生する。安全な食品が誰にも簡単に手に入るのはいいことだが、それを支える人たちの生活はどうなっているのか。
最近では日本でも農家の働き手に中国やベトナムから来る人たちが増えているというが、彼らの働く環境に問題はないのだろうか。消費者が望むものは安全でおいしくて、環境にもよくて、安くて便利。しかもいつでも好きなだけ好きなものが食べられる。果たしてそんな食べ物がつくれるのだろうか。そして、それが他者からの搾取に支えられなければならないとしたら…。

イスラエル産のオーガニックポテトを買うか、国産の非オーガニックを買うか、いつも悩んでしまう。消費者はますます複雑な選択をせまられているのだ。