
提唱者ロブ・ホプキンスの著書「トランジション・ハンドブック」では、「トランジション・タウン」ではなくあえて「トランジション・イニシアティブ」と言い換えている。行政区域を単位とする従来型マスタープランのイメージを避け、「イニシアティブ=市民の責任ある決断、行動の第一歩」という部分を強調しているようだ。
「トランジション」がこの数年、英国はもとより世界中で人気を得、広がっているのは、緊急かつ深刻なこのテーマに明るく前向きに取り組む姿勢が多くの人を魅了したからだろう。ハンドブックを読むと、人びとがさまざまな知恵や技をもちより、想像力豊かに取り組めば、これからやってくる「移行・変遷(トランジション)」の結果は必ずしも今よりも質の低いみじめな時代の到来ではなく、むしろ地域がいろいろな意味で力を取り戻し、地球環境的にも個人のライフスタイルとしても優れた社会になる、という希望を感じることができる。ひたすら恐怖心をあおり、罪の意識をかきたてるようなネガティブな主張ではなく、いかに自分の生活や自分のまちを変えていけるかを楽しむ建設的で創造的な姿勢がそこにはある。
12のステップにはコアグループの結成、意識づくりに始まり、関連団体との連携や創造的なミーティング、ワーキンググループによって目に見える実例をつくっていくこと、またお年寄りの技術に学んだり、地方自治体と協力関係をつくることなどが盛り込まれている。いずれも行政計画のような一律な目標年次や定めるべき項目はなく、その都市、町村、あるいはどんな単位の集団でもそれぞれの地理的特性や文化風土を活かして独自の目標やプログラムを作っていくのが特徴だ。
トランジションのコンセプトを理解するひとつのキーワードに「レジリエンス」がある。きたるショックの日にパニックを起こすことなく、また対処療法的な手法でとりあえず場をしのぐのでもなく、しなやかに外界の変化に対応しながら、再生する力を身につけようという意味がこめられている。日本をはじめ先進工業国はハイテクを駆使してこれまでの状態を維持しつつ問題を解決しようとしてきたが、これはいわゆる「レジリエンス」のないやり方だといえる。ハイテクは緊急時に弱かったり、経済的に持続可能でなかったりするからだ。また、自らの資源は保全できても結果的に他者を搾取したり、社会格差を招いたりする可能性も否定できない。
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